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Sustainable Fashion3 | サステナブルファッションとは

衣服の歴史をひもとくとわかるように、私たちにとって衣服は生活の基本であり、なくてはならないもの。同時に、人類の進化とともにそのあり方は大きく変容してきました。今では、ファッションは着る人一人ひとりの個性を表現するものであり、その日の気分を上げたり、TPOを演出するアイテムになったり、そして娯楽のひとつにもなっています。

日々を豊かにしてくれるファッションが地球環境に大きなダメージを与えている現状を知ってしまうと、何かしなきゃ……と焦る気持ちも芽生えてきます。それは渦中の業界も同じこと。今、国や業界の枠組みを超えて、世界規模で未来を変えるための取り組みが始まっています。それが「SDGs(エスディージーズ)」です。

SDGsとは?


このところ、テレビや新聞や企業広告でよく見聞きするようになったSDGs。SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略称で、日本語では「持続可能な開発目標」といいます。これは、2015年9月に国連のサミットで採択された国際社会共通の目標で、先進国も途上国も一丸となり、2030年までに「誰ひとり取り残されない社会」の実現することを目指すもの。その持続可能な開発目標って?具体的に詳しくみていきましょう。

SDGsは、17の目標と169のターゲット(より具体的な目標項目)で構成されています。
1. 貧困をなくそう
2. 飢餓をゼロに
3. すべての人に健康と福祉を
4. 質の高い教育をみんなに
5. ジェンダー平等を実現しよう
6. 安全な水とトイレを世界中に
7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに
8. 働きがいも経済成長も
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
10. 人や国の不平等をなくそう
11. 住み続けられるまちづくりを
12. つくる責任 つかう責任
13. 気候変動に具体的な対策を
14. 海の豊かさを守ろう
15. 陸の豊かさも守ろう
16. 平和と公正をすべての人に
17. パートナーシップで目標を達成しよう

上記のとおり、17の目標には21世紀の世界が抱える大きな課題が取り上げられています。そして、各目標に対して、具体的な目標がそれぞれ5〜10項目設定されています。SDGsは、これまでの国連施策とは大きく異なる画期的なものとして、今や多くの国を巻き込んだ一大ムーブメントに。一体、どんなところが画期的なのでしょうか?

ファッション産業に関連がありそうなターゲットを例に挙げてみると……
目標12.「持続可能な生産消費形態を確保する」(つくる責任 つかう責任)
ターゲット5:2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用および再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。

このように、SDGsのアジェンダの中には明確な数値や条件は設けられていません。「これをやらなければいけない」というルールがなく、2030年にありたい姿から“逆算”して、今何をすべきかを考え、自分でアクションを決められるのが最大のポイント。

どのように取り組むかはそれぞれ自由なので、ポジティブな関心が集まりやすいところも特徴です。また、これまで「サステナビリティ」は環境とほぼイコールにされがちでしたが、そこには経済や社会の持続可能性も含まれていることがわかり、より身近なものとしてとらえやすくなったことも大きいといえます。

SDGsとアパレル産業の関係性


SDGsのモノサシで見れば、アパレル業界の大量生産は必ずしも合理的ではないし、決して持続可能な方法でもありません。世界全体がSDGsの達成に向かう中、アパレル産業は大きな障壁となってしまっているのです。ここからは、具体的にどんなことが障壁になっているのか、ファッションとSDGsの関係性についてみていきましょう。

◆環境問題
原材料(コットンや化学繊維)の生産は、水や石油などの天然資源を大量に消費します。綿花栽培では効率を上げるためにたくさんの農薬を使用していて、産地の土壌汚染にもつながっています。衣服をつくるすべてのプロセスだけでなく、廃棄する際の焼却処理でもCO2を排出し、地球温暖化の一因に。

また、現在生産されている衣服の半分以上を占める化学繊維の中には、洗うたびに微細なプラスチックが溶け出し、分解に何百年もの時間がかかるために海洋汚染を進行させているものもあります。年々深刻化するこの課題解決に向けて、再生材の利用や、新たな素材の開発に取り組む企業が増えています。
こうした問題は、地球環境に関する目標13〜15の内容に該当します。

◆労働問題
低価格が武器のファストファッションは、つくるコストをより低く抑えるために発展途上国へと進出しました。途上国の雇用創出や産業発展には大きく貢献しているものの、労働環境の面では問題だらけ。人件費を抑えるために安すぎる賃金で雇われたり、過酷な環境で長時間労働を続けていたりと、製品の安さの裏でかなりの無理を強いられている労働者の実態が明らかになっています。

最近では、中国の新疆ウイグル地区で生産される“新疆綿”に強制労働の可能性が指摘され、アパレル業界は厳しい視線を浴び、対応を迫られています。労働問題は基本的人権だけでなく、経済や社会の豊かさにまで広く関わるもので、目標7〜12の内容に当てはまります。

◆過剰生産・廃棄問題
「ファッション産業の構造」の記事で述べたように、ファストファッション全盛のアパレル産業は「作った方が安い」構造になっており、ムダを出し続けるサイクルが止まりません。売れ残るのを前提に大量生産して大量に廃棄する企業が多く、その結果、余剰在庫が問題視されています。

持続可能性の観点からは、生産量を適切にコントロールすることが求められるだけでなく、廃棄を減らすためのリサイクルや、新たなビジネスモデルとして「オフプライスストア」(余剰在庫やシーズンを過ぎたアイテムをセレクトしてひとつの店舗で販売する新業態)なども今後発展が期待されています。
こうした問題は地球環境と経済・社会環境のどちらに対しても責任を負うべきものであり、目標12の内容とも関連が深いといえます。

2015年のSDGs採択から国際的な機運がぐんと高まっているのは確かですが、じつはそれよりも前に、アパレル業界がサステナビリティを強く意識するきっかけになった出来事があります。2013年4月、バングラデシュで起こった、アパレル産業史上最大の惨事といわれるビル崩壊事故です。

崩壊したのは、バングラデシュの首都ダッカ付近にあった「ラナプラザ」という8階建てのビル。がれきに埋もれ、1,100人を超える人が命を落としました。ビルには5つの縫製工場があり、犠牲者の多くはそこで働く人たちでした。彼らは、コストを下げるために不当な給与で雇われ、安全基準さえ守られていない亀裂の入った建物で働いていたのです。

この大惨事を機に、途上国での搾取的な取引や劣悪な労働環境が大きな問題となりました。現在の産業構造に限界を感じ始めた業界は、バリューチェーンの全段階で持続可能性に対する問題意識を持つようになったのです。

世界的なアパレル企業が相次いで対応策を行うようになっただけでなく、ファストファションからムリやムダをなくし、永続性のある生産販売のあり方を目指す動きが強まりました。数年前から始まっていた取り組みが、SDGsによって一気に加速したといえるのではないでしょうか。

このように世界的な動きが大きくなり、サステナブル消費がトレンドになりつつある中、企業は生産活動そのものを見直し、課題解決に向かえるようなビジネスモデルへと転換し始めています。

アップサイクル


具体例のひとつに、アップサイクル(Upcycling)が挙げられます。アップサイクルとは、その名の通り、リサイクルの上を行くアイデア。従来のリユースやリサイクルとは少し異なり、廃棄物や不良品の素材を活かしながらよりよい別の製品につくり変える(アップグレードする)ことで、もとのアイテムよりも価値の高いモノを創り出す取り組みです。

なかでも生地は特にロスの多い素材。生産された生地のうち商品製造に使われているのはわずか15%だそうで、残りの85%は「色や質感が違う」「作りすぎた」といった理由から未使用のまま倉庫に保管され、のちに廃棄されています。衣服にならなかった生地がたどるのは、焼却・埋め立て処分という悲しい道。本来は利用できるこのような素材をゴミにするのではなく、アップサイクルによって新たな命を吹き込むことで、環境や労働の負荷を減らすことにつながります。

海外ではすでに生地のアップサイクルの取り組みが増えてきています。アメリカの「FABSCRAP(ファブスクラップ)」は、ニューヨークの有名ブランドやファッションデザイナーの手元で余った布地や端切れを回収し、使えるものを再販したり、新しい生地をつくったりしています。

また、ブラジルでは2015年から、日本語で“布の銀行”を意味する「BANCO DE TECIDO(バンコ・デ・テシード)」という団体が活動中。使わない布地を集め、査定してオンライン販売しており、これまでに30トンもの布地が新たなライフサイクルを手に入れています。

有名ブランドの間でも、倉庫に眠る服を活用した事業が続々スタート。たとえば、日本を代表するセレクトショップBEAMSは、在庫商品を手仕事でリメイクするブランド「BEAMS COUTURE」を立ち上げました。クリエイターとの協働にも積極的で、2021年5月には人気ブランドkate spade new yorkがこの姿勢に共感し、kate spadeのデッドストック生地を使ったコラボレーションアイテムを発表しました。こうしたサステナブル・ブランドが増え、支持が広がれば、アパレル産業の“リデザイン”も進むかもしれません。

アパレル業界の具体的な取り組み


サステナブルな生産消費を目指し、企業では大小さまざまな取り組みが始まりました。ごみをなくすための心がけとして“3R”をいう言葉を耳にしたことは多いでしょう。3Rとは、Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)のこと。今注目されているのは、この3つにRefuse(リフューズ)を加えた「4R」という考え方です。

Reduce(リデュース)

使用済みの衣服がなるべくごみとして廃棄されないような製造・加工・販売を行うこと。長く着られることを前提とした商品企画を行うことで、衣服の廃棄削減につながります。先に挙げたBEAMS COUTUREのように、リメイクによるリデュースも解決策のひとつといえます。

また、一部のファストファッションブランドでは、大量生産による廃棄をなくす取り組みを始めています。たとえばユニクロでは、過去の膨大な販売データを分析して適正な生産数量を推定し、在庫が発生しないようコントロールしています。在庫が発生した場合はセールを行い、廃棄在庫を極力出さない仕組みを構築しているのです。

Reuse(リユース)

使用済みの衣服を再利用すること。サブスクリプションサービスの導入により、売れ残りや値引きせざるをえないデザイン性の高いアイテムからも収益が上げられます。結果として1着の着用回数を増やせるのもポイント。また、企業側が着なくなった服のリセール(再流通)を促す取り組みに力を入れる必要性も叫ばれています。

大手ファストファッションのH&Mやアメリカンイーグル アウトフィッターズでは、2019年から服のレンタルサービスを開始。消費者に対して新たな服と出合える選択肢を拡大し、ファッションの楽しみ方を広げることにもつながっています。

Recycle(リサイクル)

使用済み、あるいは廃棄された衣服を資源として再生利用すること。衣服のリサイクルは、分離・分解して原材料の段階にまで戻してから利用することが多いため、時間やコストを消耗するのが難点。しかし、可能な限り資源を循環させ、環境負荷を減らすためには重要な取り組みです。

日本では、着なくなった服を店頭回収し、古着のポリエステル繊維から再生ポリエステルをつくる「BRING」というプロジェクトがあります。参加企業はパタゴニアやSHIPSなどのアパレル系だけでなく、百貨店や不動産を含む50社以上。回収拠点は現在、全国に3000以上にまで増えています。

Refuse(リフューズ)

上記の3Rにつながらない製品を“拒否する”こと。環境意識が高まれば、アパレル市場においても3Rに対応できない製品は今後望まれなくなるはずです。アパレル業界ではすでに、コストが高くなっても再生材を利用するようになってきました。

なかには、すべてのアイテムを再生素材や環境負荷の低い天然素材のみで作っているECOALF(エコアルフ)のようなブランドも。企業発の行動変容を促す取り組みは、今後ますます増えていきそうです。

サステナブルファッションへの関心は高まっているものの、具体的な行動には至っていない、という人も多いはず。けれど、消費者である一人ひとりが、知り、考え、一歩を踏み出すことは、解決への後押しになるはずです。次の記事では、サステナブルファッションの取り入れ方について考えていきます。

▼参考情報
本記事は有限会社ケイエイティが展開するサスティナブル岡山デニムブランドkentinaのコンセプトをお伝えするために執筆した記事となります。
▼参考文献
『アパレル業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』たかぎこういち著(技術評論社)
『大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実』仲村和代、藤田さつき著(光文社新書)
環境省 SUSTAINABLE FASHION これからのファッションを持続可能に
(https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/)
ユニセフ 持続可能な開発目標(SDGs)(https://www.unicef.or.jp/sdgs/index.html)
2030 SDGsで変える Powered by 朝日新聞(https://miraimedia.asahi.com)
ジャパンSDGsアクション(https://j-sdgsaction.jp)
ファッションHR(https://fashion-hr.com/hr-talks/working_in_fashion/22530/)
tsunageru(https://blog.tunageru.com/all-about-textile/sdgs-in-apparel-industry/)
FINE MAGAZINE(https://c-fine.jp/magazine/upcycle-2/)
ファッション衣料とサステナビリティ(https://east-wind2019.com/archives/116)

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